青ポスの部屋

旅と技術とポエムのブログ

社会人博士か、専業博士か

この記事は社会人学生 Advent Calendar 2022 17日目の記事です。書き上げたはいいものの投稿するのを失念していて遅刻してしまいました。申し訳ありません。

アドカレ向けの自己紹介

自分は今年の7月に企業を退職し、10月に社会人博士課程ではない一般の博士学生として入学しました。応用物理学、レーザープラズマの研究をしています。

bluepost69.hatenablog.com

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そのため社会人学生じゃないのではと言われると微妙ですが「社会人経験を積んでから大学に戻った人」と好意的に解釈してアドカレ参加しました。。。

とはいえ自分も当初は社会人課程での進学も検討していたので、社会人博士として進学するメリットデメリットなどをまとめておきたいと思います。

自分の選択:社会人博士か専業博士か

自分は企業に在籍中に博士課程への進学を決意しました。企業に在籍している人が進学するためには2つの選択肢があります。

  1. 社会人博士課程に進学する
  2. 退職して一般の博士課程に進学する(本記事では専業博士と呼びます)

自分は2.を選び、会社を退職して一般の博士課程に進学することにしました。

理由

当時は少し成り行き任せなところがありましたが、理由を考えて列挙してみると意外とたくさんありました。

企業の仕事と研究を両立する自信がない

第一にこれです。

社会人課程の人はみんな150%くらい稼働してようやく学位を得ているような印象がありますが、自分は持病があるのでそんなに稼働する自信がありません。仮にやろうとしたところで体を壊すか、どっちも中途半端になって出世もできず学位も得られないというような不幸な結末が予想されます。

会社の理解が得られなかった

社会人博士では自分のフル稼働だけでなく会社の理解、協力も得る必要がありますが、残念ながら自分の会社では得られませんでした。

前職は中小企業に入る規模の会社でしたが、博士課程に行った人はまずおらず、社会人博士として進学するならまず制度作りからというところでした。研究活動に従事するために仕事をセーブする方針に直属の上司は賛同してくれましたが、上位職にエスカレーションしていくにつれて賛意は薄まっていった印象があります*1*2

役職的にも平社員から1ランク上がってこれからは仕事の質が変わっていくというフェーズでした。会社には「これから中堅社員としてバリバリ仕事をこなしてもらいたい」という期待があり、会社から期待される圧と社会人博士としての研究活動の折り合いをうまくつけながらこなしていくのは難しいと感じました。

形式的なところでいくと、自分のいる研究科では企業に在籍しながら受験するためには、進学後の形式に関わらず受験承諾書が、進学後も企業に在籍する場合は加えて推薦書が必要となります。これを出すには会社名義で出すことになるので多かれ少なかれ決裁が必要となるでしょう。当然会社の理解を得られなければこれらを出してもらえず受験することもできません。

企業に在籍すると厚生年金を払う必要がある

会社に関連して、企業に在籍していると厚生年金の支払義務が発生します。

退職して進学した場合は国民年金加入となり、前年所得などの他の要件に引っ掛からなければ学生納付特例で免除してもらえます。ところが学生納付特例があるのは国民年金のみで厚生年金にはありません。

企業に在籍する場合は仮に給与を一銭も受け取らなかったとしても厚生年金の加入義務があり、会社にも自分にも保険料支払いの義務が生じます。したがって休職して社会人博士として進学しても「企業の籍を残す」くらいしかメリットがありません。会社との話し合いでも「自分にも会社にもメリットがない」という結論に至りました。

会社と大学が地理的に遠い

会社は大阪で大学は京都です。したがって平日に仕事が終わった後大学で研究をするというようなことは不可能だし、会社の近くに住めば大学は遠く、大学の近くに住めば会社は遠くなります。

時間を節約したい

一般に博士課程は専業でも3年で修了できるとは限りません。自分の見る限りでは、下記の通り3年以上かけている人の方が多かったです。

  • 社会人博士課程にいた人は4~5年かけて修了する人が多い。
  • 自分の研究室で一番親しかった先輩は専業だったが4年かけて修了している。

特に後者の影響が大きいです。社会人博士課程に行った人の話は大部分が情報系で自分と異なる分野でしたが、一番身近な先輩の事例はストレートに響いてきます。もちろん3年で修了した先輩もおり自分もそれを目指しますが、社会人博士だと3年で終わらない可能性が非常に高いです。

自分は年齢が30歳に近いため3年か5年かは人生設計上非常に重大な問題です。特にネックに感じているのが結婚です。自分の場合まず相手を探すところからスタートしなければなりませんが、学生の間はマッチングできる可能性は低いのではないかと思います。

環境を変えたい

また若干会社の話に戻りますが、企業勤務に少し行き詰っていた感じがあり、ガラッと新しい環境に移りたいとも思っていました。仮に博士課程に進学するという話がなかったとしたら転職活動を開始していたと思います。

研究予算が獲得できない

学生の生活支援的なものは企業からお金をもらっているともらえません。例えば最近始まったフェローシップ創設事業は企業から一定以上の収入を得ていると応募できません。京大の場合は下記の通り募集案内に書いてあります。

なお、以下の学生は機構プログラム及びフェローシップの支援対象になりません。(中略) 所属する大学や企業等から、生活費相当額として十分な水準(240 万円/年)で、給与・役員報酬等の安定的な収入を得ていると認められる学生

www.ceppings.kyoto-u.ac.jp

年340万円を超えていると、支給どころか貸与型第一種奨学金も受けることができません。そもそもそれだけ給与が得られるなら借りなくてもいいんですが、第一種奨学金は業績によって返還免除があるのにそれを狙えないのは少しデメリットと思います。

www.jasso.go.jp

ちなみに学振は社会人博士でも申し込めるらしいですが、秋入学の場合は申し込み期間上DC1は申し込めません。

実際どうだったか

まだ退職から5ヵ月、入学から2ヵ月しか経っていませんが、今のところは専業としてよかったと思います。

自分の置かれている研究環境では、研究というより保守に近い泥臭い作業がどうしても必要になります。正社員を続けながら同じ作業をやるとしたらプログラミングを仕事と合わせて1日12時間くらいしないといけなくなり、おそらく体が持たなかったと思います。

まとめ

以上長々と書いてきましたが、自分の場合は専業博士がよかったと思っています。

下記のような人は専業にした方がいいと思います。

  • 研究にフルコミットしたい人
  • 体力に自信がない人
  • 収入が激減してもやっていけるだけの資産や知識のある人
  • 会社が進学を認めてくれない人

逆に下記のような人は社会人課程にした方がいいと思います。

  • 研究分野と普段の業務がマッチしている人*3
  • 体力に自信がある人
  • 会社が進学をバックアップしてくれる人*4
  • 定収入をなくしたくない人

*1:管理部門の人からは正直堪えるようなことも言われました。入社した経緯や在職中の経験から会社には愛着がありましたが、これにはかなりがっかりしました。それと同時に「この会社は所詮その程度の会社だった」「自分はここにいるべきではない」というような踏ん切りにもなりました。その判断が正しいのか誤りなのかは3年以上後の未来に明らかになることでしょう。

*2:いろいろあったのでこの詳しい経緯は別のどこかで話すことがあるかも知れません。ここでは書きません。

*3:会社の理解を得やすいという点で。

*4:「支援してくれる制度がすでにある」「先行事例がある」レベルでないと厳しいと思います。