青ポスの部屋

旅と技術とポエムのブログ

全世界の自動車をEVにすることはできるのか

先日吉野先生がリチウムイオン電池の研究でノーベル賞を受賞された。自分もエネルギーと名前の付く課程にいたことがあるので、思うところをまとめておこうと思う。

リチウムイオン電池の偉大さ

リチウムイオン電池は、今や生活でなくてはならないものになっている。情報化社会の主役であるスマートフォンやノートPCの電源をはじめ、ありとあらゆる携帯端末の電源はリチウムイオン電池になっている。従来は鉛電池だった自動車やバイクのバッテリーもリチウムイオン電池のものが出てきている。

地球温暖化対策のために内燃機関から電力へエネルギー源のシフトが進んでいるが、電力はガソリンなどの燃料と異なり貯めるのが難しいという特徴がある。リチウムイオン電池はその課題解決の手段として、モバイルバッテリーから電気自動車のバッテリー、非常用蓄電設備まで、大小さまざまな蓄電設備で第一選択肢となりつつある。

そもそもリチウムとは

ところで、リチウムイオン電池の原材料は何なのだろうか。それは言うまでもなくリチウムである。

リチウム、読者のみなさんはどれくらいご存じだろうか。リチウムはいわゆるレアメタルと呼ばれるほどの希少金属ではない。化学の授業で周期表をまず学習するが、「水兵リーベ、僕のお船」のリーがLi、リチウムである。水素、ヘリウムにつぐ3番目の元素であり、アルカリ金属に位置する。

しかし「リチウムを化学実験で扱った」とか、「この食材にはリチウムが豊富に含まれている」とか、身近な話はおそらくそれほどないだろう。ナトリウムやカルシウムなど近縁の金属元素と比べて、それだけリチウムは希少なのである。

そんなリチウムはどこから持ってくるのだろうか。ナトリウムなどは海水から持ってくることができるが、リチウムは海水には少ししか存在せず、抽出するのは難しい。

そのため鉱山から採ってきているが、その鉱山は南アフリカに偏在している。「偏在している」というのは、資源的にはよろしくない状況である。現在の石油がまさにそうで、産出国の政治家の一存で価格が上下したり、最悪供給が止まる。

どれくらいのリチウムが必要なのか

あたかも「自動車がすべて電動になれば温暖化は解決する」かのように思えるが、すべての自動車を電気自動車に置き換えるには、リチウムが圧倒的に足りない。

現在自動車は世界で約13億台あると言われている。

一方、プリウスハイブリッドの1台分のバッテリー重量は総重量で24kg程度らしい*1。PHVの場合は120kgくらいある*2

13億台のプリウスが1台50kgのリチウムを使用すると仮定すると、650億kgのリチウムが必要になる。一方、現在のリチウムの埋蔵量は1100万トン*3、つまり110億kgしかない。つまり、このままでは圧倒的に足りない。そのうえ実際には電気自動車以外の需要もある。

代替となる研究

海水からリチウムを取り出す

島津製作所が取り組んでいるらしい。

https://www.shimadzu.co.jp/boomerang/22/07.html

曰く、海水には2300億トン(=230兆kg)ものリチウムが埋蔵されていると考えられており、それをフル活用できれば、供給不足は解消する。海水は海に面した国であればどこでも採取できるので、資源の偏在の問題も解決できる。

代わりにナトリウムを使う

東京理科大や京都大で研究がなされている。

https://www.mugendai-web.jp/archives/9675

元素周期表で同じタテの列に並ぶ元素は似た性質を示す。リチウムはアルカリ金属と呼ばれる周期表でタテ1列目に並ぶ元素に属する。そのため「リチウムの1つ下のナトリウムで二次電池が作れないか」という研究が行われている。

まとめ

ここまでで、リチウムイオン電池ですべてのエネルギー問題を解決するにはリチウムの量が足りないこと、その解決に向けて現在も多くの化学者が研究を進めていることを記した。二次電池は今後のエネルギー問題を解決するうえで重要だが、リチウムの増産が先か、代替電池が出てくるのか、注視したい。