青ポスの部屋

旅と技術とポエムのブログ

読書感想文「サラ金の歴史」

ネットニュースの新刊情報で見て興味を持ったので、思い切って買いました。

bookmeter.com

あらすじ

  • 戦前は個人間金融で現代の上限金利をはるかに超えるような有利子での貸し借りが当たり前だった。

    • スラムでは「お金を貸す」ということが威厳に関わるものであり美徳とされたほか、お金を持っていることが知れ渡ると貸してほしい人が群がって借り上げていくという始末だった。
    • 当時はあまり安定していなかったサラリーマンの間でも、手軽に稼げる「副業」として有利子での貸し借りが一般化していた。
    • 情報技術などかけらもなかった当時は、相手の信用情報は個人的な付き合いで評価するしかなく、システマティックに大きく進化することはなかった。
    • 銀行は個人へ貸し付けることはほとんど行っていなかった。
  • 戦後から高度経済成長期にかけて、団地金融という革新的なシステムが考案された。

    • 「団地に住んでいる人は厳重な入居審査に合格する信用情報の持ち主である」という事実が利用され、金融システム上の大きな効率化につながった。
    • これが「会社勤めをしている人は入社試験を突破できる信用の持ち主である」となり、サラ金の発展につながっていく。
  • 素人高利貸しの延長であった団地金融に金融業界の知識が持ち込まれ、サラ金が誕生した。

    • ただし創業当初は「ちゃんと返済能力のある人に貸す」という理念が保たれていた。
    • 当時はATMなどもなく、「顧客に現金をいかに早く届けるか」というところに涙ぐましい経営努力がなされていた。
      • カブでお金を配達するとか。
      • CD(キャッシュディスペンサー)も登場当初は「現金の自動販売機」と銘打っていた。
    • しかし貸金業法などの規制強化や日本経済の低成長もあり、行き詰まってはよりリスクの高い困窮者に貸し付けを広げ、血も涙もない取り立てを行うようになっていった。
  • 結果として消費者金融は社会から悪者扱いされ、経営不振となり、銀行の子会社となっていった。

    • 銀行が最後にいいところを取っていくあたりずる賢さを感じる。
    • 武富士は倒産し、アコムアイフル、プロミスなどは銀行の子会社となった。

雑感

消費者金融業界はある意味資本主義で最も「倫理的な腐敗」に近い部分だと思います。

近々で読んだ「それをお金で買いますか」では市場の倫理的な問題を述べていますが、その中では「お金を貸す」という行為には触れられてすらいません。西洋では金貸しは賤業とする考え方が伝統であったからでしょう。

しかし「お金を貸す」という行為は、ある意味資金不足という市場の冷たさに面した人に対して手を差し伸べるということでもあります。住宅ローンがなければ多くの人はマイホームを手に入れることはできないでしょう。貸金業というのは現代ではなくてはならないものになっています。

その仕組みづくりに大きな役割を果たしたのも、実は消費者金融だったということが本書で明らかにされます。最初期の銀行は個人は一切相手にしませんでした。その銀行が個人融資を始めたのも消費者金融の拡大が影響したと言えるでしょう。また信用情報を業者の枠を超えて共有し、システマティックに与信を管理するという技術は消費者金融が先駆けでした。

消費者金融によって人生を狂わされた人も多くいます。強引な取り立てや劣悪な労働状況はいつの時代になっても肯定されることはないでしょう。また現代においても4~20%という高利でありながら消費者金融を利用せざるを得ない人々もいます。しかし消費者金融を絶対悪の存在として無視することは、これからの金融を考えるにあたっても大きな損失となるでしょう。

最近SNSを通じた「ひととき融資」が問題となりました。規制が強い消費者金融に代わって、再び建前上は「個人」の間の融資が拡大しているようです。「規制を強めると水面下に潜る」というよくある社会問題の一例でしょう。

SNS融資は近年のインターネット技術の進歩の結果でもありますが、情報技術で言えば近年はいわゆるフィンテックの発展に伴ってpaidyのような新たな金融サービスも現れています。これも素人高利貸しから団地金融へ移行した時と同様に、新たなブレイクスルーをもたらすのかもしれません。

光あるところには必ず闇が存在します。華々しい話も多い金融業界において今や影となってしまった消費者金融業界の栄枯盛衰を描いた良書と言えると思います。